雑感〜日本固有のカタカナキーワード群

DX グローバル人材 ジョブ型 タレントマネジメント…。 残念ながら、上記のホット?な日本のキーワードは、グローバルIT企業ではほとんど聞かれないものですね。それが何故だか考えることが、思索の第一歩なのかと。

ジョブ型をめぐる冒険〜ジョブと報酬の深い関係性

コロナ疲れのせいでしょうか、誰しも目から鱗が何枚でも抜け落ちますよね。それでも次から次へと目から鱗は生え続けてくるかもしれません、こんなややっこしい不思議の国のジョブ型寓話を新年早々聞かされれば…。 以下はあくまでも小職の限られた外資系ジョブ型人事実務で経験・見聞きした範囲からの見解ですので、念の為。それと、本文引用の「タクシー運転手」の転籍云々ということと関係なく、もっと一般的な回答です。 ★事業譲渡や合併等で部門(ジョブ)がなくなり移籍する場合、基本契約で移籍する社員の労働条件が下がることがありうるか? 現実には様々なケースが考えられますが。下がることがありうるか?と聞かれれば、両社の合意があればYES、理屈上はありうるのでしょう。しかしながら小職が知りうる範囲では実際には下げる条件提示は見たことがないです。下げれば当然、労働契約で定めた労働条件の不利益変更が生じ、当事者となる社員に承諾されませんから。泣き寝入りすることは余程の事がない限りない訳です。 むしろ実際のケースでよく出るのは「次の会社から提示されたオファーの条件自体は悪くない(同等又はそれ以上)だが、やはり自分は移籍したくないのでオファーは承諾しない。その場合でも(ある意味会社の都合で辞める羽目になったので)自分だけ会社都合扱いで特別加算割増退職金(希望退職と同様の特別パッケージ)を貰えないか?という、ある意味かなり手前味噌な言い分です。この対処方法も実際には会社ごとケースバイケースでしょうが、一般的には(というか常識として)その回答はNoですね、すなわち自分でオファーを蹴る場合は自己都合退職ですよ、というのも自分の個人的都合で出されたオファーを断る訳ですから。そのうえで会社都合のパッケージを下さい(例、加算金20〜30カ月分の積み増し付けて!)とはよう言い切れませんよね。 ★ジョブ型で同じ仕事に従事する労働者は、会社は違っても同じ賃金が支払われるということか?(その場合、会社は違っても正社員でも派遣社員でも同じ賃金ということか?) これは容易に回答できます。勿論、Noです。たまたま会社間で一緒になることもありましょうが、それは偶々その両人の経験・スキルレベル・パフォーマンス等々の評価要素がほぼ同じで、同様の報酬ポリシー(給与水準)を持つ競合企業等に勤務するという場合です。ところで、基本的にどの企業もどの社員にいくら給与を支払うかは全くその企業の自由・任意です。各企業において社員の報酬をどう位置づけるかは極めて重要な人事戦略であり、会社ごとの「報酬ポリシー」に拠ります。例えば、GAFAのようなIT業界をリードする企業であればITの優秀人材を世界中から獲得するためにIT業界の最高水準の報酬(福利厚生や自社株付与を含めたトータルパッケージ)を準備し、マーケットより高めの報酬ポリシーが設定されるでしょう。 が、ここで重要なのは、どのような業界・会社であっても、関連するマーケット(業界・職種・ジョブレベル)の報酬水準、つまり競合とする他社で同じジョブ・レベルに支払われる給与水準を〜熾烈な人材競争と一方で賃金支払いの資源制約というトレードオフ環境にある以上〜「無視できない」ということです。私が知りうるほぼ全てのグローバル(ジョブ型)企業は、毎年1回、人事コンサルティング会社から各国・地域のサラリーデータ(マーケットサーベイにもとづく労働市場の詳細な賃金データ)を購入し、自社のジョブレベル(ペイグレード)ごとの給与レンジをキメ細かくチェックし、更新しています(ジョブレベル・報酬水準の見直しは、外資系人事マンの極めて重要な年次タスクです)。もっとも日本企業同様、どの企業でもジョブレベルごとに給与レンジは幅があり、マーケット中位点を中心に例えば上下20−25%の幅(余裕)をもって給与レンジが設定されます。社員のスキルレベルが上がれば、同じジョブでも1つ上のグレードにプロモーションすることで昇給の上限(天井)がさらに上がっていくのは日本企業でもおなじみの手法でしょう。つまり、ジョブ型企業でも年次給与見直し(昇給)はあります。一見、同じジョブでも給与はある程度までは上がりペイレンジの上限に達すればそこで止まります。1つ上のレベルに上がればさらに昇給余地は出てきます。これも日本企業と同じです。 次の質問、ジョブ型で「正社員」と「派遣社員」の賃金は同じ仕事をしていれば同じなのか?ですが、これこそがメンバーシップ型固有の問題意識でしょうか。実際にはこれは同じ土俵での比較考察は出来ません。なぜなら、企業に雇われる「正社員」(職務「無限定」の無期雇用社員)とそれと雇用主が異なる「派遣社員」(時給・有期雇用・職務限定)とが同じ職場に混在し、同じような仕事に携わるという設定自体が極めて特殊(日本的な労働環境)で、ジョブ型雇用ではそもそもありえない条件設定だからです。 実際にジョブ型でありうる設定としては、正規社員(フルタイム、職務限定、有期または無期雇用)と、短時間社員(パートタイム、職務限定、有期または無期雇用)の2者の組み合わせでしょう。その場合、両者が同じ経験・スキルレベルであれば、二人の賃金は時間単価でみれば同じ(同じ時間働けば同じ賃金)ということで給与設定されているはずです。上述のとおり、会社が異なれば報酬ポリシー(賃金規程)は異なります。仮に派遣先の正規社員と同じ職場で同じような仕事をしている派遣・請負労働者でも、雇用される(派遣元の)会社の中で相対的に重宝されるような貴重な戦力であれば派遣先にいる正規社員より高い給与を貰うこともありましょう。これも全て、実際はケースバイケース、個々の状況や労働者のスキルレベルによります。 ★同じジョブが同じコストであれば、特定のジョブを外注に出すメリットは何か? これも、そもそものその労働者の賃金値付けの段階でメンバーシップ型を前提とした環境(同期であれば職種・ジョブに関係なく正社員全員が同じ給与レベル)で考えてしまう場合と、そうでないジョブ型の組織環境で起こりうる場合とで前提となる状況が全く異なりますね。さりとて、とあるジョブ型企業が~ある時点や段階から急に(それまで内製化していた)特定の部門や職種やジョブを戦略的に外注化することもありましょう、おもに株主からのさらなる利益向上の圧力から。あるいは事業ドメインの絞り込み等の戦略見直しから。その場合はやはり短期的な意味での利点は殆どないかと。なぜなら掛かるコストは同じかまたは多少上がりますから(移転費用や管理費用など含めると)。 それでも実際にそうするのは、自社のミッションと将来を見据えた中長期的観点からなされる戦略的意思決定なのかと。すなわち、自社として「どの領域で、どのような方法で、ビジネスを今後していきたいのか?」という経営の全くの意思から、自社の本当に競争優位のあるコア事業(部門・職種)は何なのか?それら(だけ)を社内に残し、そうでない(つまり、それぞれの専業他社の方が自社よりうまくやっている職種・領域)は~多少便利だからというくらいでは自社内部でキープできないしさせないよ、という全くのビジネス判断~ここでもそれは株式市場等からの経営者へのさらなる外部圧力のせいかも?〜がなされるのです。現状維持では、昨年と同じ業績では、NGですよという投資家からの飽くなき利潤追求のボイスが…。 ーーーー以上、コアな同ブログ読者皆さん(人数にして数百人位?)が、世に見慣れぬジョブ型雇用のリアルな世界をより正確精緻に理解出来るよう時間を割いて描きました〜日経新聞記者の方にも、ぜひよく読んで理解を深めて頂きたいですね。 なお上記回答だけですでにお察しの方には蛇足でしょうが、この様な人事や雇用に関するマクロ・ミクロの問題を考察したり解決したりするには、実は労働法や社会保険や人事制度の理解だけでは全く不十分で、経営学やマネジメント、経済学やファイナンスの視点もかなり重要です。 さらには企業人事の実務家は労働法やHRMの研究者や専門家から理論や統計を学び、一方で研究者は実務家から実際を学ぶ、こうした相互理解がクリティカルですね。Hamachan ブログは、この分野における関係者全員のラーニングを深める絶好の「場」と考えています。 投稿: ある外資系人事マン | 2021年1月 5日 (火) 21時08分

ジョブ型で仕事が会社から分離される場合はどうなるのか?

それでは、勝手ながら小職が代わって人事実務上でわかる範囲でお答えします。〜ただ、ここはニルバーナなどでは全然なく、コロナ第三波の感染爆発に日々慄くシリアスな常世でしょうか…。 グローバル企業では事業再編や合併統合に伴い、特定の部門や機能(ミクロで見れば各人のジョブ)がある会社から離れ、ある会社に移るケースがよくあります。その場合、当該労働者の地位及び移籍先における労働条件がどうなるか?ですが、それは両社(当事者)間のMaster Service Agreement (基本契約)に基づいて決定されます。 よく見るケースは、移籍先から提示されるオファー(給与や福利厚生などの労働条件全般)は移籍前のレベルを下回るものであってはならない(すなわち労働者の待遇は同等又はそれ以上)というものです。会社間で基本給や賞与や手当や福利厚生などの内容や金額は異なっても、全部引っ括めた年間賃金で比べて労働者に不利益にならぬよう配慮することが円滑な事業譲渡を進めるポイントです。 メンバーシップ型にどっぷり浸かった日本ではなかなか理解出来ないかもしれませんが、労働者の賃金はどの会社でいかに長く働くかという点ではなく、どの仕事をどのレベルで現在しているかという点で労働市場に基づいて決定されます。全く同じジョブであれば移籍前後で雇用主が変わっても賃金は上がりも下りもしません。なぜなら、社員の待遇を下げるロジック(動機)も殊更に上げるロジック(合理的理由)もありませんから…。 さらには、ジョブ型であれメンバーシップ型であれ、民間企業がどの部門や職種の仕事を自社の内部に残し、どの仕事を組織の外部に出すかは戦略的な経営判断です。仮にそれが「公に認められない」となると自由な企業活動に支障をきたす恐れがありますが、それがあるとすれば健全で公正な競争を確保する競争法(独占禁止法)の観点からでしょうかね。 総じて、こういった企業再編時のコンプライアンスは、メンバーシップ型の日系企業よりもジョブ型の欧米企業の方がしっかりしていると思います。 以上、ジョブ型の誤解を解くためにも皆さんのご参考になれば幸いです。 投稿: ある外資系人事マン | 2021年1月 3日 (日) 11時16分 http://eulabourlaw.cocolog-nifty.com/blog/2020/12/post-2e985d.html#comment-119102683

用語解説「ジョブ型」とは

日経新聞の「ジョブ型」解説ですが、むしろ後半の方がおかしいですね。曰く、「… (中略)日本では勤続年数に応じて昇給する「年功型」が多数派だが、成果に基づき評価されるジョブ型では年功概念は否定される。同期入社でも給与格差が拡大する可能性が高い。ジョブ型が一般的な欧米では企業内で特定のジョブがなくなれば、雇用もなくなるケースが多い。成果と評価の結びつきを維持しつつ雇用を保障する「日本版ジョブ型」の在り方が模索されている。」 おそらく、意地悪な意図はないのでしょう。日経新聞としてはたぶん精一杯、わかる範囲で描いているだけかと…。以下、あくまでご参考まで〜小職では「ジョブ型」の解説は次のようになります。 ーーーー日本と韓国の多くの企業で一般的ないわゆる「正社員」(職務無限定の無期雇用社員)は、世界的には極めてユニークな雇用形態である。それを「メンバーシップ型」と名付けるとき、そうではない世界標準の雇用形態のことを対比して「ジョブ型」と呼ぶ。 メンバーシップ型雇用では、多くの同質かつ均一な労働者が学校卒業直後に「新卒」で企業に入社し、その後中高年まで長期間勤め上げることを念頭に、会社主導の広範かつ柔軟な職務変更(人事異動)、年功昇進/賃金、定年退職と手厚い退職金(賃金の後払い)等によって中長期的な社員の労務貢献に報いることを特徴とする。 一方で、世界(ジョブ型雇用)では〜そのような特殊なメンバーシップ型が前提とする労働者の同質性や均一性及び新卒採用と長期雇用という諸条件は見出されないため、雇用及び人材マネジメントの仕組みは必然、本来的なもの〜各人の職務内容(ジョブディスクリプション)に基づくものとなる。すなわち採用はポジション別に行われ、賃金は職務別(ジョブレベル)に応じて設定され、処遇は社員の短期的な貢献に都度報いることを特徴とする。 すると、日本では第二次世界大戦以降すでに半世紀以上にわたってほぼ全ての会社でメンバーシップ型雇用を唯一のデフォルトとしてきたため、残念ながら、一般の人たちがそうではない雇用形態(すなわちジョブ型)について想像することすら困難を極める状況となっており、2021年初めの現時点では、そうした結果、ほぼ全ての企業がこの誤った現状認識のもと会社側にとって大変都合のよい手法で「日本版ジョブ型」の導入という全く訳の分からない制度変更を試みるという異例の事態が生じている。 投稿: ある外資系人事マン | 2021年1月 1日 (金) 20時20分

JD(職務記述書)の正しい作り方とは?

2020年代の今はどうだか分かりかねますが…、小職が人事コンサルだった成果主義全盛の00年代は人事コンサルの世界は意外にも狭く、世に名前を知られた少数のカリスマ人事コンサルタントの元に弟子入りせんと一部の外資人事コンサルファームにみんな群がったものです。〜ご本人はきっと覚えてないと思いますが、山本さん率いるPWC人事コンサルチームに私も30代半ばに一度お世話になりかけた事がありました…。 さて、ここではジョブ型ガジェット小噺の一つとして「JDは、誰がどのように作成すべきか?」という具体的テーマを。 結論を先に言えば、JD作成に「ザ.正解」はありません。JDは作れる人が作ればよいのです。当たり前すぎる話ですが、その仕事の中身を詳しく知らないままではJDは生まれません。米国HRMの教科書には、JD作成の主な手法として、①本人が自分で作成する、②マネジャーが作成する、③人事部や外部専門家(人事コンサル)がヒアリングまたは行動観察の上で作成する、④人事部や外部専門家が自らその職務を体験の上で作成する、⑤人事部や外部専門家がデスクリサーチで作成する、等が挙げられています。それぞれの手法にメリットデメリットがありますので、上記いずれかの手段で作成したドラフトを別の手段で他者がレビューするのが現実的なアプローチでしょう。そして、最終的には人事部が全社的観点で整合性をチェックする訳です。 ひとたびJDが出来上がった後のステップは、「職務分析」「職務評価」「ジョブグレード設定」「ペイグレード設定」「ジョブタイトル決め」といった一連のテクニカルな作業が待ってます。これらの客観性と公平性を担保するためには外部専門家のサポートを借りるのが良策でしょう、とりわけ大企業の場合は。ひとまず、今日はここまで。 投稿: ある外資系人事マン | 2020年12月11日 (金) 21時50分

2020年師走、コロナ禍で労働課題を振り返る(Hamachanブログ書込み)

http://eulabourlaw.cocolog-nifty.com/blog/2017/07/post-4f8c.html?cid=118987396#comment-118987396 昨今のコロナ禍における在宅勤務への働き方大シフトに比例するかの如く、日本の大手企業やベンチャー企業を中心に「ジョブ型」への関心が急激に高まっています(実際、他業界から小職へのプチ相談も増えてますし…) そこで改めて「なぜ、今、ジョブ型」なのか?と自戒:回想すると、すでに二年半前の「この時」のディスカッションでほぼ重要な論点は出尽くしていたかな?と。すなわちそれは「無限定性からの脱却」であって、(JDを作ることで)自分のなすべき事となさざる事を「フォーマルに見える化」し、それらを会社上司のみならず「社会全体と共有する」ことなのかと。そのようなオープンマインドな取り組みであれば、私も(外資系)人事マンとして大いにそうした会社を支援したいし、結果的にそこで働く労働者をもサポートしうるのではないかと考えるのです。 投稿: ある外資系人事マン | 2020年7月21日 (火) 18時47分 そうでなくても「前のめり」なわれわれ近代人の甲斐性に対して、師走のこの時期には多少とも同時代の加速度に抗いながら過去を顧みて遅々と歩を進めることも必要でしょう。 とりわけ今年丸一年に及ぶ世紀のコロナ禍でおそらく大都市圏の一部オフィスワーカーは通勤負担から解放された結果(働き方改革が奇しくも半ば意外な形で達成され)、在宅勤務で大いに浮いた時間を家事や趣味やネットサーチなど様々な活動に費やしているはず。そこで、あのとき(3年前の)裁量労働制と高プロの大論争を、冷静になった今、改めて振り返ってみれば新しい発見や気づきがあるかもしれません。というのも(小職の記憶に誤りがなければ)この時多くの国民や為政者は、未だ自分たちの日本社会(正確には日系企業)が当たり前に拠って立つ組織構造〜すなわちメンバーシップ型雇用の特徴と特殊性〜にほとんど無自覚のままさらなる裁量労働制の拡張や高プロ制の導入を叫んでいました〜あたかも自分が今どこにいるかも知らずにどこでも別の場所に行きたいと叫ぶ子供のように〜が、ようやく自らの姿の比較対象としての「ジョブ型」というソリッドな概念を国民的に掴みつつありますので。 投稿: ある外資系人事マン | 2020年12月11日 (金) 06時29分

JILPTマンスリーレポート「管理職特集」(2020/12)書評

いくつかの小論も含め、全体的には大変興味深そうな冊子ですね…。ただ、小職からは(現時点でリンクで全文が読める)巻頭の「提言」に関してだけ、少々辛口のコメントを…。 某教授の同小論に曰く、「今月の特集は管理職なので,そもそも管理職の配置がどの様に決められるかを考えたい。管見の限りでは,管理職の決め方は,次の 3 つである。まず第 1 は,言わずもがなであるが,人事権による任用である。これは企業や官庁その他多くの組織で行われている。もちろん,人事権を行使するのは社長,人事部,ライン管理職と様々であり,その前提となるのも年齢,等級,人事考課, ネポティズムと千差万別である。第 2 点は,社内公募である。ただし人事一般であればいざ知らず,社外からの中途採用を除けば管理職を公募したという例は寡聞にして聞かない。さらに第 3 点 は,選挙による管理職の選出。例えば大学は学部長を学部専任教員の選挙によって決めている。(中略)それでは,管理職が社内公募の対象にならないのはなぜか? それは管理職が「やりたい人に任せる」のではなく「やってほしい人に任せる」 仕事、つまり組織の論理が個人の論理よりも優先される仕事だからである。勘違い君が公募で手を挙げ,成り行きで配置されてしまうと,部署の売り上げや成員の管理に多大な損失を及ぼすのは火を見るよりも明らかであり,それ故多くの人間が関与する人事権による配置が望ましい。」 うーん、だいぶ世間&時代とズレていらっしゃるかと。真面目な話、(第三の「選挙」はさておき…)第一の「任用」と第二の「社内公募」は適切な場合分け区分ではありません。あくまで管理職の候補者募集の「サーチ手段」として「公募の有無」「(公募する場合の)社内外の開放性」があるだけで「任用」はどんな場合にせよ必要、組織として省くことはまずありませんから。「勘違い君が手を挙げ、成り行きで配置されてしまうと…」のくだりは、どこか昭和のおふざけ漫画を見ているようで全くリアリティがありません。 ということで、令和時代のJILPTさんのマンスリーレポートの「提言」としてあまりにお粗末、場違いと言わざるを得ませんね。全くもってNGです、少なくとも現役企業人事屋の私の視点では。あるいはこの提言の位置付けはこのくらいの「味付け」でOKなのでしょうか… 全くそうは思いませんが。 投稿: ある外資系人事マン | 2020年11月26日 (木) 22時03分

遅い昇進とメンバーシップ型の相関度

http://eulabourlaw.cocolog-nifty.com/blog/2020/12/post-475554.html#comments 思うに、ある一時期世界中から絶賛された日本企業のいわゆる「三種の神器」の中の『内部昇進/年功序列(遅い昇進)』こそが、メンバーシップ型雇用システムを駆動させる最終防衛線なのかもしれません。別の言い方をすれば、その会社が真の言葉の意味での「ジョブ型」なのか或いはいま流行りの「なんちゃってジョブ型」なのか、その見極めポイントは会社の管理職や専門職の登用人事に如実に表れるかと。なぜなら真のジョブ型であればあくまでも「ジョブありき」の人材募集/採用/アサイン〜ときに「早い選抜」やなりふり構わぬ人材引き抜き〜を行う筈で外部から専門性の高い女性や外国人材を(内部人材を押さえて)採用せざるを得ず、その結果、人材の多様性が増さざるを得ない。すると、年次や派閥や合併前出身会社はたまた当人の「思い」やキャリアパスといった、「人重視/社員目線」のアサインメントさらには全社的な人事異動やローテーションといった人事慣行はそうでなくても同質集団たるメンバーシップ型の流儀そのものであり、ジョブ型の生命線である所の「そのジョブを遂行するに最適な経験/知識/スキルを持つ候補者を是々非々でアサインする」という流儀に反しますから。 件の職務記述書(JD)ですが…、ジョブ型雇用システムを西洋中世建築物で喩えればJDはレンガのブロックのようなもの。これが「人柱」(職務経歴書)で作られた経営組織となると想像するだけで空恐ろしい響きがしませんか。 投稿: ある外資系人事マン | 2020年12月 5日 (土) 13時42分

ジョブタイトルもJD同様に重要ですよ

真贋見極めポイントをもう一つ〜こちらの方がずっと簡単かも。 すなわち真のジョブ型企業であれば、そこで働く社員全員に「ジョブタイトル」が必ず与えられます。例えば人事の担当者レベルであれば、各人の担当エリア等に応じて採用コーディネーター、報酬/福利厚生アナリスト、人材開発スペシャリスト、人事ジェネラリスト、HRビジネスパートナーという具合です。一般的に会社組織では(言わずもがなですが…)各社員は自分の名刺やメール署名欄に会社で定められたフォントやフォーマットで必要な個人情報を過不足なく記載することが社内規程上全員に求められますが、それは通常「氏名、担当職務、所属組織、住所、電話/メール」でありそこに必ず担当職務名(ジョブタイトル)が含まれます。典型的メンバーシップ型の日本企業でよくあるのは組織下位の担当者レベルだと組織名までしか記載のない(つまりジョブタイトルのない)名刺/メール署名ですが、ジョブ型であればこうした一担当者であっても必ず全員に適切なジョブタイトルが与えられますので、念の為。別の言い方をすれば、実はコテコテのメンバーシップ型であっても担当者にジョブタイトルさえあれば外形上は立派にジョブ型組織に見えてしまう⁈のかもしれません、良し悪しは別として…。 投稿: ある外資系人事マン | 2020年12月 6日 (日) 06時40分

本田由紀教授の日経コラムに一言だけ

余計なお世話かとも思いましたが〜当ブログ読者でも日経新聞記事を日々閲覧されない方も一定数おるかとも推察され〜今回の本田由紀東大教授の同コラム記事をブログ読者皆さんのご参考になる事を祈念して勝手ながら全文掲載させていただきます。その後、小職なりのコメントも付けましたので、念のためご参考まで…。 ーーーー専門性とスキルの尊重を ジョブ型雇用と日本社会  「ジョブ型雇用」という言葉を頻繁に目にするようになり、早くから提唱していた者の一人である筆者としては隔世の感がある。その契機となったのは日本経済団体連合会がジョブ型雇用の方針を打ち出したことにある。 2018年11月の提言「Society5.0―ともに創造する未来―」から、20年3月の採用と大学教育の未来に関する産学協議会・報告書「Society5.0に向けた大学教育と採用に関する考え方」に至るまで、近年発表された4つの提言においていずれもジョブ型雇用の推進が掲げられている。 そうした動きを反映して、日立製作所、富士通、NECなどをはじめ、企業が実際にジョブ型雇用の導入を進めていることが報道されている。日本経済新聞(19年12月26日)の記事にある「社長100人アンケート」の結果をみると、ジョブ型雇用を導入している企業は43.8%、導入を検討している企業が19.4%と、合計63.2%が前向きの姿勢を示している。 注目が高まっているジョブ型雇用だが、言葉が広まるとともに多くの誤解も生まれており、中心的に提唱してきた濱口桂一郎・労働政策研究・研修機構労働政策研究所長が、自身のブログや諸所のメディアで懸命に誤解を正している。 要点を復習すると、ジョブ型雇用は(1)成果主義ではなく(2)個々の社員の職務能力評価はせず(3)解雇がしやすくなるわけではなく(4)賃金が明確に下がるわけではない――ということだ。この点に関しては、紙面でも「労働時間ではなく成果で評価する。職務遂行能力が足りないと判断されれば欧米では解雇もあり得る」などと間違った説明がされており、反省を求めたい。 ジョブ型雇用とは、職務記述書(ジョブディスクリプション)で規定されたジョブに、それを遂行するスキルをもった働き手を当てはめるやり方だ。そのジョブを支障なく担当していれば、成果や職務遂行能力のこまごまとした評価は行わない。社内にそのジョブが存在しなくなった場合も、欧州では他のジョブへの変更を打診するよう定められており、使用者側の都合による解雇は厳しく規制されている。 賃金については、安井健悟・青山学院大学教授らの研究「無限定正社員と限定正社員の賃金格差」によれば、業務限定正社員(ジョブ型雇用)の場合には無限定正社員(従来のメンバーシップ型雇用)よりも月収が6.5%下がるが、そのほとんどは労働時間と職種の違いから説明され、ジョブ型であるから下がるというわけではない。 すなわちジョブ型雇用とは、労働条件がより厳しく、成果主義・能力主義が徹底され、雇用が流動化しやすいというものではまったくない。もし、ジョブ型雇用をその方向で悪用しようとしている企業があるのであれば、徹底した批判と是正要求が必要である。 正しいジョブ型は、むしろ働き方を改善するためのものである。鶴光太郎・慶応大学教授らの研究「多様な正社員の働き方の実態」などによると、ジョブ型雇用の正社員は従来型のメンバーシップ型雇用の正社員に比べ、仕事内容や労働時間に関する満足度が高く、ストレスや不満は少ない。 輪郭が明瞭なジョブに専心できるという働き方は、使用者のフリーハンドで仕事内容が量・質ともに無限定に変化・増大する従来型の雇用に比べ、働き手にとっての負荷や不確実性が軽減される。加えて、もっとも重要な点は、ジョブ型雇用ではジョブに即した専門性やスキルが発揮しやすく、それをさらに向上・更新させることへの働き手の動機づけにもつながりやすいということである。従来型の働き方では、これらの点が不足しやすく、それが日本の雇用や経済にとって重大な弱点となっている。 厚生労働省の「平成30年版 労働経済の分析 ―働き方の多様化に応じた人材育成の在り方について―」は、経済協力開発機構(OECD)の「変化する、求められるスキルの評価と予測」に基づき、国際比較を行っている。 その結果、日本では労働者のスキル不足を感じている企業の割合および労働者の教育経験・専門分野・スキルと仕事のミスマッチが生じている割合が突出して高く、それにもかかわらず企業の能力開発費が国内総生産(GDP)に占める割合が他国と比べて著しく少ないことを指摘している。 この点については、筆者の「世界の変容の中での日本の学び直しの課題」でも論じている。OECD国際成人力調査(PIAAC)の結果から、日本の成人の「学び直し」が他国と比べて少なく、また職場や労働市場においてスキルを発揮できている度合いも国際的に見て低いことがわかる。 国内の学び直しの実情に関して、経済産業省産業構造課が18年に実施した「リカレント教育に関する実態調査」データを用いて検討すると、仕事に関連する学び直しの実施率には雇用形態や性別などによる格差が大きい。また自発的な学び直しの意欲そのものは過半数の成人が示しているが、正社員および非正規男性では労働時間の長さ、非正規男女では費用負担、正規・非正規の女性では家事時間の長さがそれぞれ障害となっている。 同調査では、こうした憂慮すべき事態がある中で、自身を「スペシャリスト」であると回答している正社員(大卒正社員サンプルの中で約15%を占める)は、学び直しの意欲・実施率ともに目立って高いことが注目される。このスペシャリストの職種は「専門的・技術的な仕事」が40%を占めるが、それ以外にも「管理的な仕事」17%、「事務的な仕事」13%、「サービスの仕事」15%など幅広く、ジョブ型正社員とイコールではないが重なる層であると考えられる。 上記の論考には掲載していないが、追加分析を行ったところ、スペシャリストはそれ以外と比べて「業務スキル水準」「大学での専攻分野と仕事の関連度」「収入」「仕事満足度」がいずれも高い傾向が見られた(図参照)。この傾向は、スペシャリスト内で約14%を占める医療系学部出身者を除いて分析しても、同様に確認された。 人工知能(AI)に限らず、技術が目まぐるしく進展・変容する中で、高度な専門性やスキルを発揮し不断にアップデートしていくことは不可欠である。日本経済の低迷や衰退の重要な原因が、この不可欠な条件の欠落にあることについては、あまたの指摘がある。だからこそ、従来の雇用のあり方とはなじまない面があっても、可能なところからジョブ型を切り出していくことが肝要だ。 使用者側は、社員の中から希望者を募り、学校・大学やその後の学びとスキルを尊重しつつ、職務記述書と労働条件について労使間で調整するといった形で、働く側の発意を生かしたジョブ型雇用の導入と拡大に、真剣に取り組んでいただきたい。 ーーーーということで、個人的に一番興味深かった(かつ嬉しかった)点は、つまるところ労働者のリスキル、社会人の学び直しという観点から(正しい)ジョブ型を(社会政策的)観点から強く推奨されていらっしゃる点ですね。それと意外にも面白かったのは、明示的には言及されてませんが、実は当の日経新聞さんの誤ったジョブ型記事をやんわり指摘されていること…(苦笑)。 最後に一点だけ、内容の誤りを指摘しますと、文中の(2)「個々の職務能力評価はせず」の箇所ですが、これは正しくありませんね。時折「ジョブ型で工場のブルーカラー労働者には業績評価はされない(?)」というような記述を見かけますが、それはそれで産業労組の労働協約上等の制約でこうした特殊なケースもあるのかとは想像しますが、少なくともジョブ型雇用における圧倒的大多数の普通のオフィスワーカーにおいて各人の職務遂行能力やパフォーマンスが「評価されない」ということはまずありません。正しいジョブ型の場合、ペイフォージョブが基本ですからペイの多寡はジョブ(サイズ)に比例し、それは職務評価によってジョブそのものに値付けされ、つまり人ではなくポジション自体にまず値段がついている訳ですが、そこにアサインされている当該労働者のレベルや適格性(職務遂行能力及びパフォーマンス)は毎年厳しく会社から「評価」されない訳がありません。すなわち、労働者の働きぶりと労働の成果、それらを支える職務遂行能力の評価は、メンバーシップ型とジョブ型の区分を問いません。どんな企業もマネジャーは部下の職務遂行能力を評価しています。 追記として少しややこしくなりますが、ジョブ型人事制度では「評価」はその対象の違いによって次の3つに区分されます。 Job evaluation 職務評価(ジョブの価値評価。その上でJD作成)Talent assessment 人材評価(採用や昇進時の候補者アセスメント)Performance appraisal パフォーマンス評価(年次の個人業績評価) 日本語ではどれも同じ「評価」の用語を当てますが、実際には評価される対象と手法の区別(概念の整理)が、ジョブ型人事では厳密に求められるます〜エバリュエーション、アセスメント、アプライザル〜微妙に「評価」のニュアンスが違うようです。 投稿: ある外資系人事マン | 2020年12月 7日 (月) 21時42分 http://eulabourlaw.cocolog-nifty.com/blog/2020/12/post-bcded4.html