読書ノート 「音楽する精神」

音楽がわれわれの聴覚体験を構造化し、それを意味が通るものにする力があるかと私は確信している。音楽が外界の喧騒から一時的に避難する抜け道を用意しているのは間違いない。

瞑想・空想、眠り、一人で散歩するのと同じ精神内容の走査・検索・並び替えが可能となる。

音楽を聴くとき、一時的に外からの刺激が入ってくることから守られる。そのとき、世間から隔絶された特殊な世界、秩序が支配していて不調和が締め出される世界に入り込むのである。本来、これは有益なものである。退行ではなく、心の内で再び整理しなおすプロセスを促す一時的退却(retreat)であって、適応を助けるものである。

音楽とのかかわりに逃避的な要素があるように見えるとしたら、成功すること、追求することに精いっぱいで、緊張と不安に満ちた日常を送っているから。毎日の暮らしの中で音楽は生活を高めていく部分となりうるし、またそうならねばならない。・・・エネルゲイアとしての音楽鑑賞。

音楽は秩序を与え、人生の意義を与え、創造するという心の働きに積極的にかかわらせる。

芸術を通して感性が磨かれ、情緒が養われるだけではない。バランスのとれた身体の動きと効果的な知性になくてはならない。

作品をその人なりに知ることは、作品とかかわっていくうえで需要な側面である。そうしたかかわりは友人との関係によく似た特徴がある。音楽には、本質的に人間的な特徴があるのた。

偉大な作品は極めて個性的であり、おおむねどの作曲家の作品かわかるようにできている。

音楽は、以前に感じなかった感情と気分、知ることのなかった情熱を味あわせてくれると考えている。

音楽は、自分自身の内部に降下して、そこに新しい何かを発見するのを助けてくれる。

音楽は、身体への損傷、精神的な障害、心の病に対して治療的効果があると思われる。

一人で音楽を聴くことで、元気づけられ、癒されるのだ。

ある曲を繰り返し聴くと、1つの枠組み(シェーマ)が頭の中に組み込まれる。音楽はそのまま長期記憶として蓄えられる。

巨匠の音楽を聴いていると、人間の活動における精神の動きを忠実かつ十全に体現している。精神の動きをまとめあげた音楽の力に身をゆだねることで、奇跡が成就される。格別のよろこびがもたらされ、最終的に豊かにしてくれる。

音楽の動きが、単に音楽の動きではなく、人間の精神活動における深淵なイメージであるということ。

ニーチェによれば、よりすぐれた人間は、自分の情欲に社会的規律を課し、昇華を介して、自分の人格を洗練していくもの。

本当の自分になる(個性化)とは、芸術作品を創造する行為に匹敵するような創造的営為である。つまり、偏見や教育の専制から解放されることであり、あらゆる社会的束縛や偏見、思い込みから自分を解き放つことである。

♪A・ストー氏のいう「個性化」とは、アリストレスの「エネルゲイア」(本来的な生の自分時間)と同じ意味だろう。

「音楽する精神」(アンソニー・ストー) 2012.4.8

You Tube “Ongaku” by YMO (2007)